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もうもくものがたり
盲目物語
谷崎 潤一郎
「中央公論」1931(昭和6)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,341 字 · 148 页
るよりしかたがないと仰っしゃって、そなえをきびしくあそばされ、きゅうにはおせめなさりませなんだ。それで双方たいじんのまゝ三月がすぎ、四がつになりましてからいよ/\とのさまもやながせ表へ御発向でござりました。もはやほっこくもさくらのはながちり春のなごりのおしまれる季せつでござりまして、おこしいれのゝちはじめての御しゅつじんでござりましたから、うちあわび、かちぐり、こんぶなど、おくがたはことにこゝろをこめておさかなの御用意をあそばし、御主殿においてかどでをおいわいなされました。かついえ公はごきげんよく御酒をまいられ、たゞ一戦にてきをほろぼし藤吉郎めのくびを取って、月のうちにはみやこへのぼってみせようぞ、かならず吉左右を待っておられよと仰っしゃって、それより中門へたちいでられ、おくがたもそこまでおみおくりなされましたが、そのときとのさまが門のほとりに弓杖をついておたちなされ、お馬にめそうとなされますと、お馬がいなゝきましたので、おくがたのおかおいろがかわったと申すことでござります。なれども、このおり、岐阜においては三七どのがふたゝび上方をてきになされて柴田がたに内応あそばし、やまとの筒井じ