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びざん

眉山

太宰 治

「小説新潮」1948(昭和23)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,141 字 · 15 页

青空文庫

私たちのためにも、一生懸命つとめてくれましたからね。私たちが二階に泊って、午前二時でも三時でも眼がさめるとすぐ、下へ行って、トシちゃん、お酒、と言えば、その一ことで、ハイッと返事して、寒いのに、ちっともたいぎがらずにすぐ起きてお酒を持って来てくれましたね、あんな子は、めったにありません。」

涙が出そうになったので、僕は、それをごまかそうとして、

「でも、ミソ踏み眉山なんて、あれは、あなたの命名でしたよ。」

「悪かったと思っているんです。腎臓結核は、おしっこが、ひどく近いものらしいですからね、ミソを踏んだり、階段をころげ落ちるようにして降りてお便所にはいるのも、無理がないんですよ。」

「眉山の大海も?」

「きまっていますよ、」

と橋田氏は、僕の茶化すような質問に立腹したような口調で、

「貴族の立小便なんかじゃありませんよ。少しでも、ほんのちょっとでも永く、私たちの傍にいたくて、我慢に我慢をしていたせいですよ。階段をのぼる時の、ドスンドスンも、病気でからだが大儀で、それでも、無理して、私たちにつとめてくれていたんです。私たちみんな、ずいぶん世話を焼かせましたからね。