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びざん

眉山

太宰 治

「小説新潮」1948(昭和23)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,141 字 · 15 页

青空文庫

これは、れいの飲食店閉鎖の命令が、未だ発せられない前のお話である。

新宿辺も、こんどの戦火で、ずいぶん焼けたけれども、それこそ、ごたぶんにもれず最も早く復興したのは、飲み食いをする家であった。帝都座の裏の若松屋という、バラックではないが急ごしらえの二階建の家も、その一つであった。

「若松屋も、眉山がいなけりゃいいんだけど。」

「イグザクトリイ。あいつは、うるさい。フウルというものだ。」

そう言いながらも僕たちは、三日に一度はその若松屋に行き、そこの二階の六畳で、ぶっ倒れるまで飲み、そうして遂に雑魚寝という事になる。僕たちはその家では、特別にわがままが利いた。何もお金を持たずに行って、後払いという自由も出来た。その理由を簡単に言えば、三鷹の僕の家のすぐ近くに、やはり若松屋というさかなやがあって、そこのおやじが昔から僕と飲み友達でもあり、また僕の家の者たちとも親しくしていて、そいつが、「行ってごらんなさい、私の姉が新宿に新しく店を出しました。以前は築地でやっていたのですがね。あなたの事は、まえから姉に言っていたのです。泊って来たってかまやしません。」

僕はすぐに出かけ、酔っぱらって、そうして、泊った。