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びざん

眉山

太宰 治

「小説新潮」1948(昭和23)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,141 字 · 15 页

青空文庫

姉というのはもう、初老のあっさりしたおかみさんだった。

何せ、借りが利くので重宝だった。僕は客をもてなすのに、たいていそこへ案内した。僕のところへ来る客は、自分もまあこれでも、小説家の端くれなので、小説家が多くならなければならぬ筈なのに、画家や音楽家の来訪はあっても、小説家は少かった。いや、ほとんど無いと言っても過言ではない状態であった。けれども、新宿の若松屋のおかみさんは、僕の連れて行く客は、全部みな小説家であると独り合点している様子で、殊にも、その家の女中さんのトシちゃんは、幼少の頃より、小説というものがメシよりも好きだったのだそうで、僕がその家の二階に客を案内するともう、こちら、どなた? と好奇の眼をかがやかして僕に尋ねる。

「林芙美子さんだ。」

それは僕より五つも年上の頭の禿げた洋画家であった。

「あら、だって、……」

小説というものがメシよりも好きと法螺を吹いているトシちゃんは、ひどく狼狽して、

「林先生って、男の方なの?」

「そうだ。高浜虚子というおじいさんもいるし、川端龍子という口髭をはやした立派な紳士もいる。」

「みんな小説家?」

「まあ、そうだ。