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ままのてこな

真間の手古奈

国枝 史郎

「サンデー毎日」1929(昭和4)年1月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,631 字 · 10 页

青空文庫

その時十八九にもなりましょうか、美しい娘が菓子皿を持って、奥の座敷から出て来ましたが左衛門の前へ菓子皿を置くと、しとやかに辞儀をいたしました。

で、左衛門も辞儀を返しましたが、

「ああ……これは……ううむ……悪いぞ」

と、口の中でこう呟いて、まじまじと娘の顔を見ました。

人相見の左衛門でございます。何か娘の人相の中に、不吉の形を見たがために、そう呟いたのでありましょう。

が、彦右衛門には解りませんでした。

「私の娘、蘭でございます」

こう左衛門にひきあわせてから作男へ指図しようとして、庭下駄を穿くと裏手の方へ足早に行ってしまいました。

二

で、縁へは左衛門とお蘭と、二人だけが残ってしまいました。

と、左衛門でありましたが、何気ない様子で話しかけました。

「――から衣きつつなれにし妻しあれば、はるばる来ぬる旅をしぞ思ふ――業平朝臣の有名な和歌は申すまでもないことでありますが、八ツ橋は名高い歌枕の土地ゆえ、この外にいろいろ有名な和歌が、うたわれていることでございましょうな」

するとお蘭は直ぐに答えました。

「――一筋に思いさだめず八橋のくもでに身をも嘆くころかな。