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めをひらく

眼を開く

夢野 久作

「逓信協会雑誌」1935(昭和10)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,759 字 · 20 页

青空文庫

時々ドドーオオン、ドドーオンという遠雷のような音が聞こえて来るのは、どこかの峯の雪崩れの音であったろうか。

しかし私にはソンナ物音を聞き分けてみるなぞいう心の余裕が、いつの間にか無くなっていた。

私は間もなく雪の岨道を歩く困難が、想像のほかであることを思い知り初めた。その新しく辷り落ちて来た軽い、深い粉末の堆積の中に落ち込み落ち込み、掻き分け掻き分け進んで行くうちに瞼がヒリヒリと痛くなり、鼻の穴がシクシクと疼き出し、息も絶え絶えになって一と休みすると、忽ち零下何度の酷寒を感じ初めるので、又も匐うようにして歩き出す苦しみは、経験のある人でなければわからない。

私はとうとう向うへ行く勇気も、後へ引返す元気も全く無くなって、雪の中へ半身を斜めに埋めたまま、あたりの真白な、荘厳を極めた樹氷を見まわした。そうして心の底から死の戦慄を感じながら、半泣きになって叫んでみた。

「おおおおお――いいい」

「…………オオオ…………」

それは谷々の反響であったか、人間の返答であったかわからない、遠い微かな声であった。私は又叫んだ。

「おおおおお――いいいイ」

「オオオ――イイイ」