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いしころ
石ころ
山本 周五郎
「富士」大日本雄辯會講談社、1944(昭和19)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,450 字 · 23 页
娘たちからは驕慢のようにみられていた。……お父上さまの御威勢が高いから。ご縹緻自慢でいらっしゃるから。……そんな言葉がときどき耳にはいってくる、けれど松尾はそれさえ聞かぬふりをしていた、そういう蔭口にはもう馴れていたのである。
「あら今あそこへいらっしゃるのは多田さまではございませんか、ご自分で馬の口を取っていらっしゃる方……」娘たちのひとりがそう云うのを聞いて、松尾は思わず胸がどきっとした。
「ああそうでございます、多田さまでございますよ、どうなすったのでしょう、口取がうしろにいるのにご自分でお曳きなすったりして」「それはなにしろ多田さまですからね」「戦場で兜首の代りに石を拾って来るほどの方ですものね」いかにも可笑しそうにみんなくすくすと笑いだした。それは決して悪意のあるものではなかった、けれど蔭口を面白くしようとする不必要な誇張が感じられた。松尾はまるで自分が嗤われているような耻ずかしい口惜しい思いでわれ知らず頬を熱くしながら云った。
「おやめあそばせ、よくも存じあげぬ方のことをそのように悪口なさるものではございませんわ」云ってしまってから自分でも驚いたほど烈しい調子だった。