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ガラスをやぶるもの

硝子を破る者

中谷 宇吉郎

「朝日評論」1946(昭和21)年8月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,761 字 · 14 页

青空文庫

そういう意味では、戦争に敗けたから雪の吹き込む汽車で寒い思いをしなければならないと言うのは本当である。しかし「戦争に敗けたんだから」という言葉を、今日のように皆が無考えに使っていると、とんでもない錯覚に陥る虞れがある。もう既に陥ってしまっている連中も沢山あるらしい。

終戦直後、技術院があっさり解散してしまったので、私たちのニセコ山頂の観測所は、親なしになってしまった。施設は適当に処分するようにとの通報を受けたが、そう簡単に解体してしまうわけにも行かない。私たちにしてみれば、過去五カ年にわたって、随分苦しい目にも会って、やっと築き上げたものである。

取る物もとりあえず、樺太からの引揚民の中に雑って、地獄絵のような場面を見続けながら、三日がかりで東京へ出た。そして十日ばかりかかって、雪中飛行の研究所を農業物理の研究所として更生させるというちょっと聞くと妙な話をとりきめて、安心して帰って来た。雪中飛行と農業物理というと、まるで縁がないようであるが、もともと雪中飛行の研究と言っても、科学的には雪の本質の研究であって、寒地農業の物理的研究に雪の本質の研究が役に立たぬはずはないのである。