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ガラスをやぶるもの

硝子を破る者

中谷 宇吉郎

「朝日評論」1946(昭和21)年8月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,761 字 · 14 页

青空文庫

ニセコの山頂でこの厄に遭っていたのと殆んど同じ頃、苫小牧の飛行場でも、悲しむべき事件が起っていた。戦争中私たちは冬のニセコ山頂の研究と並行に、夏は海霧の研究に没頭していたのである。夏の数カ月毎日のように、千島及び東部北海道を襲う魔の海霧を、何とかして克服しようというのが目的であった。大規模なことはとても望めないが、せめて飛行場の滑走路の上だけでも、あの霧をはらそうというのである。

同じ目的の研究は、今度の戦争途中に英国でも始められた。英国のこの研究は立派に実用化されて、独逸のルントシュテット攻勢を喰い止めるのに、大いに役立ったのである。英国側では、もしこの霧をはらす研究に成功しなかったら、独逸は今二年生きのびたであろうと言っているくらいである。英国の新聞は、この霧の人工消散に関する記事を、伯林陥落後二カ月、即ち昨年の夏の初めに発表した。原理は石油を完全燃焼させて、その熱気を送り出して霧粒を蒸発させるのである。

私たちの方法も偶然それと原理は一致したので、トラックの上に重油の完全燃焼装置をとりつけ、それから出る熱気に大量の空気を混ぜて送風器で送り出すものである。