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いそべのわかば
磯部の若葉
岡本 綺堂
「木太刀」1916(大正5)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,709 字 · 8 页
独身の彼は弟子たちの手に因ってその亡骸をここに葬られた。
「これだけ立派な墓が建てられているのを見ると、村の人にはよほど敬慕されていたんでしょうね」と、私はいった。
「そうかも知れません。」
僧は彼に同情するような柔かい口吻であった。たとい不忠者にもせよ、不義者にもあれ、縁あって我が寺内に骨を埋めたからは、平等の慈悲を加えたいという宗教家の温かい心か、あるいは別に何らかの主張があるのか、若い僧の心持は私には判らなかった。油蝉の暑苦しく鳴いている木の下で、私は厚く礼をいって僧と別れた。僧の痩せた姿は大きな芭蕉の葉のかげへ隠れて行った。
自己の功名の犠牲として、罪のない藤戸の漁民を惨殺した佐々木盛綱は、忠勇なる鎌倉武士の一人として歴史家に讃美されている。復讐の同盟に加わることを避けて、先君の追福と陰徳とに余生を送った大野九郎兵衛は、不忠なる元禄武士の一人として浄瑠璃の作者にまで筆誅されてしまった。私はもう一度かの僧を呼び止めて、元禄武士に対する彼の詐わらざる意見を問い糺してみようかと思ったが、彼の迷惑を察して止めた。
今度行ってみると、佐々木の墓も大野の墓も旧のままで、大野の墓の花筒には白い躑躅が生けてあった。