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しゃかいじひょう

社会時評

戸坂 潤

「文藝春秋」1933(昭和8年)年6月~1937(昭和12)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 195,408 字 · 380 页

青空文庫

京大時代の博士は、学者としての科学的信念から云っても、教授としての行政的手腕から云っても、卓越したものがあったそうだが、丁度この二つの点が禍いして、例の河上事件となり、経済学部教授会は「自発的」に博士の辞職を決議した。滝川事件とは異って大学の「自由」も文部省の「顔」もつぶれずに済んだのは同慶の至りであったが、その代りに博士は政治家として新労農党の樹立、やがてその解消、地下潜入、という「山川」を越えては「越えて」辿り行かねばならなかった。之は博士自身にとっては外部から来る圧力に押された迄だったのである。(之に反して京大系統の博士の旧弟子達は、逸早くも反河上派に、反マルクス主義の信奉者に「転向」して了ったのである。)――博士は一体書斎の人だと云われている。

だが同じく書斎人と云っても色々ある。博士は独自性に富んだ学者というよりも、寧ろ最も優れた大衆啓蒙家であるようだ。無論ブルジョア社会に於ては、最も代表的な学者達に対してもまず第一に必要なのは彼等に対する啓蒙だということを勘定に入れてそういうのである。大衆啓蒙家としての博士の情熱はその人道主義的な経歴に負う処が少くはあるまい。