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しゅくはい

祝盃

菊池 寛

「電氣と文藝」1920(大正9)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,843 字 · 6 页

青空文庫

青木が、台湾へ行くよりも、こうした話の方が、幾何啓吉達の興味を支配したか分らなかった。

三人は、またこだわりのある沈黙を続けながら、池の端へ出て、そこにあるカフェーへ立寄った。カフェーへでも立寄っている方が、時間が過し易かったからである。

話は、また暫くは高等学校時代へ帰った。どんなに、銘々食意地が張っていたか、カツレツ一皿を食うために、どんなに金の工面をしたか、教科書をまで売払って、食ったり飲んだりしてしまったか、そうした話題は、今の場合三人が、一番安易な心で、耽り得るものであった。が、久野も啓吉も、それ以来の長い都会生活で、だん/\趣味が、洗練されていつの間にか、こうしたカフェーの料理などには、満足されなくなっていた。

青木が、高等学校時代と同じような、熱心な態度で、コーヒーを飲んだり、料理を食ったりしていることが、啓吉の心を暗くした。

カフェーを出た三人は、又ずる/\べったりに本郷まで歩いて来た。まだ十時頃であった。が、三人でいる妙な心の緊張には、啓吉も久野も飽いていた。

が、三丁目で電車が来ても、青木はまだ乗りそうにしなかった。三人は、そこで十分ばかり、ぼんやり立っていた。