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しんけい
神経
織田 作之助
「文明 春季号」1946(昭和21)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,754 字 · 28 页
へ来ているという気持に甘くしびれた。本や雑誌の数も標札屋の軒店の時よりははるかに増えていた。
「波屋」を出て千日前通へ折れて行こうとすると、前から来た男からいきなり腕を掴まれた。みると「花屋」の主人だった。
「花屋」の主人は腕を離すと妙に改まって頭を下げ、
「頑張らせて貰いましたおかげで、到頭元の喫茶をはじめるところまで漕ぎつけましてん。今普請してる最中でっけど、中頃には開店させて貰いま」
そして、開店の日はぜひ招待したいから、住所を知らせてくれと言うのである。住所を控えると、
「――ぜひ来とくれやっしゃ。あんさんは第一番に来て貰わんことには……」
雑誌のことには触れなかったが、雑誌で激励された礼をしたいという意味らしかった。
二つとも私自身想いだすのもいやな文章だったが、ひょんなところで参ちゃんと「花屋」の主人を力づける役目をしたのかと思うと、私も、
「ぜひ伺います」
と、声が弾んで、やがて「花屋」の主人と別れて一人歩く千日前の通はもう私の古里のようであった。この二人に同時に会えたというのも偶然といえば偶然だが、しかしそれだけに千日前が身近かに寄って来たという感じだった。