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まつりのよる

祭りの夜

豊島 与志雄

「日本小説」1948(昭和23)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,781 字 · 20 页

青空文庫

そのような話、私にはちと意外だった。

まだありますよと、お留さんは話すのである。――或る時、荷物があって、人力車で帰って来た。御苦労さん、と言い捨てて家にあがった。だいぶたって、お留さんが何かの用で、玄関の方へでてみると、俥屋はそこで、蹴込みに腰かけて煙草を吸っている。なにも人の家の玄関先で客待ちをしなくても、とお留さんが小言を言うと、奥さんはもうでかけないのかね、と俥屋は怪訝そうだ。聞いてみると、まだ俥賃を貰っていないが、と言う。それを政代に伝えると、笑うどころか、ひどく不機嫌に黙りこんでしまった。狂人のような不機嫌さだった。

そのような話も、私にはちと意外だった。

「だって、みんな、こうるさくて、気が利かなくて、先廻りばかりしているんだもの、癪にさわるじゃないの。」

「おかしいなあ……。なにも怒ることはないじゃありませんか。親切……お人よしの親切というものも、買ってやらねばいけますまい。」

「とんまだから、お人よしに見えるのよ。親切というものは、わたし、そんなものじゃないと思うわ。」

彼女のいう親切は、全く純粋無垢なものだった。人の顔を赤くさしたり、恥しい思いをさしたりするようなものは、どんな善良な気持からでたものにせよ、親切とはいえないのだ。