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きんだんのししん

禁断の死針

野村 胡堂

「講談倶楽部」1929(昭和4)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,500 字 · 7 页

青空文庫

「旦那様、これは又大した古疵で御座いますが、――さぞ、お若い時分の、勇ましい思い出でも御座いましょう」

「いや、そう言われると恥かしい、後ろ傷をと言うわけでは無いが、相手の刃物が伸びて、腰車を妙に背後へかけて斬られて居るから、人様の前でうっかり肌を脱ぐと、飛んだ変な目で見られることがある――」

本所割下水に住んで居る、浪人者の原口作左衛門、フト呼び入れた年若い按摩に、腰骨へ斜に残った古疵を見付けられて、思わず赤面いたしました。年配五十左右、浪人とは言い乍ら裕福な暮しで、ツイ傍には、若い美しい妾のお元が、手廻しよく寝酒の世話をして居ようという、まことに気のきいた寸法です。

「いずれ果し合いとか、山賊退治とか、これに就ては面白いお話が御座いましょう、お差支が無かったら、お聞かせ下さいませ」

「ついぞ人に話した事も無いが、今ではもう言ってしまっても差支はあるまい、実は斯うしたわけ――」

原口作左衛門、気楽な心持で、ツイすらすらと口を滑らしてしまいました。

「今からザット二十年前、奥州仙台に武芸の道場を構えて居る頃、同じ町内に住んで居る、これも道場の持主、佐分利流の槍をよくした某と言うものと仲違いをした。