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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 页

青空文庫

「おお、母はもいちど、あなたを産む気で、男の子を産む陣痛に耐えましょうわいの」

母の清子と共に、高氏はやがて、千手院から、屋形の方へ引移った。

輿を降りた彼の姿を見ると、城戸から中門、さらに杉木立の奥まった辺りまで、歓呼ともいえるどよめきが流れた。何年ぶりかの谺である。

同日中には、領下各地の郷武者たちも、それぞれの郷へ帰って行き、家中一統の間には、久々の謁見やら、内輪の小宴なども行われた。そして、明日はさっそく、鎌倉立ちの途につかねばならぬが、高氏の就寝は、夜半をすぎていた。

――それからのこと。眠る間はなかったろう。いや、眠れなかったという方が彼の心のすがたに近い。

「……おお。……初時鳥」

高氏はもう起き出している。

山時鳥は、毎年聞く。

が、この朝の時鳥ほど、はっきり初時鳥と意識して耳を醒まされた例はあるまい。

まだ、暁もまっ暗だが、彼は寝所の廊を出て、大股にどこかへ消えた。――ほどなく遠い湯殿の辺りで、ザッザと何十杯となく水を浴びているらしい響きがしていた。

それに眼ざめた小侍が、

「あっ、御起床か」

あわてふためいて、燭やら衣服などを、持ち運んでゆくと、