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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
吉川英治『私本太平記(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 页
機熟さず、諸州の同心と往来の秘状のみ、今は、あだとなつてここに積まる。むなしき弓箭、またすべて、一炬の灰となされん。乞ふ、家時が亡骸も、その火に附せよ。
死するに当つて、われより三代の後の子に嘱す。わが意を次げよかし。ゆめ、供養事無用なり。唯、われに代つて、遠祖の遺託を為しとげてよ。泉下、その日を待ち侍らん。
置文を前に、高氏は化石したようにいつまでもその眼を凝らしていた。
そして忘れていた呼吸が、つよい衝動の底から、ほッと一つ大きく吐かれた。
「……三代の後とある。……祖父家時どのから三代めの子といえば、おれではないか。たれでもない。この高氏」
彼は、そそけ立ッた。
自分もまた、この置文の主のように、いつかは、腹を切るような宿命の生まれなのか。
「いや。ば、ばかな……」
誰へともなく、つよく首をふッて、
「この高氏なら、そんな下手はやらぬ。もし、やるからには」
何か、総毛立つばかりな大覚悟を感じながらも「……もし、やるなら?」と、心はどこかで踏み迷っていた。「やる!」とは踏みきれない理性か臆病かが、彼にはある。
とはいえ、彼のせまい眼界で現実を見ても、人は北条氏に飽いている。