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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 页

青空文庫

婚儀の大宴は、よるひるなく、三日もつづいたのである。

登子が気疲れしたのはむろんであろう。聟の高氏にしても、連日の行事に加えて、郷党どもの祝いをうけたり、客座へ臨んだりなど……思えば他人交ぜなしに、しみじみと、新夫婦ふたりだけの閨の灯となれたのは、こよいが初めてといってもよい。

「外は雨か?」

「そのようでございまする。たそがれ頃から……」

登子は棚の香盆を下ろして、香炉に伽羅をたいていた。

ながやかな黒髪とその姿を、匂いの糸がゆるく巻いてくるにつれ、蕭条と、遠い夜雨の声も几帳の内に沁み入ってくる。

「まるで、大風のあとみたいだなあ、今夜の静けさは」

「侍部屋や下屋の者も、こよいは皆、三日三夜の眠りを、いちどにとっているのでございましょう」

「登子」

「はい」

「そなたも、疲れてか」

「いいえ、あなたさまこそ」

「わしすら、少々疲れ気味に思われる。ましてそなたは、と察しられるが……。しかし一生の門出ではある。ふたりにとっても、二度はないこと」

「ええ」

「このまま、もすこし話していたいが、眠とうないか。だいじょうぶか」

「なんのお気づかいを」

「……もそっと寄れ、もそっと」