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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
吉川英治『私本太平記(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 页
「その密使として、これから高野をはじめ、諸山へ経巡る道すがらじゃ。太夫、まだ話したいことは、一夜に尽くせぬほど、山々あるぞ」
天皇御謀反
ということばは、初めは雲の上の咒文のごとく、また、ごく一部の幕府主脳の秘語としてしかかれていなかったが、正中ノ変このかた、表沙汰となり、今日では、たれの口にもつかわれている。
だが、天皇御むほん?
どうもおかしいではないか。こんな語は、ことばの意味をなしていないと、いう者もあるにはあった。
武家もなく、幕府もなく、また院政だの、公卿の専横もなかった以前の世は、政治は天子が統べ給うものときまっていた。天子御一人のほかは、何者といえ、天子の親政を補佐るものにすぎないと、連綿、さだめられて来た国家である。
その天皇。――今とて一天万乗の君と仰がれて九重に宮居し給うお方が、御謀反とは、たれへたいしての御謀反なのか。――しいて解せば、御自身が御自身へむかってする御謀反か? それ以外に謀反の相手は世にないはずの大君ではあるまいか。
こういう、一部の見解へ。
いや、それは現実を知らなすぎる。
武家幕府が興ってからは、兵馬の権はもとより、政治は一切、朝廷を骨ヌキにして奪われ去り、全国の土地、貢税なども、武家支配下の守護地頭におさえられて、みかどの御料や公卿、社寺の荘園なども、年々、侵蝕