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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(一)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 页

青空文庫

「まず私自身が、家の下部どもをひきつれ、その中に弁ノ殿を紛れ籠めて、一たん古市の出屋敷の方へ移って行きます。……その間に、頼春と菊王は、高野街道の人なきあたりまで行き、八荒坊を斬りすてて、しかる後に、二人も出屋敷の方へ引っ返して来たらどんなものでしょうか」

「さ。うまくゆくかな?」

太夫は慎重で、なお決断には迷う風だった。それを、かたわらで聞いていた頼春は、すすんでその役を買って出た。

「ご名案です。弁ノ殿さえ、御異存でなくば、八荒坊を打果すなど何の造作でもありません。御意、いかがでございましょうや」

「いや、六波羅蠅は、旅の付き物だが、きのう見た一匹は、放免どものうちでも、頭立った曲者と思われた。ここはみなの申すごとく、大事とならぬまえに、禍いを絶っておくか」

俊基の同意に、豊麻呂の案は、たちどころに実行された。

藺笠の旅姿となった船木頼春が、菊王をつれて門を出ると、それは背かっこうまで、日野俊基そっくりに見えた。

そして、その二人が、坂下ノ辻を南へ折れて、高野街道を歩き出すと、果たして偽山伏の八荒坊が、ひたむきな様子で、先の二人を尾けて行くのが見送られた。