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しほんたいへいき

私本太平記(五)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(五)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 页

青空文庫

と、いうつけ目を狙った夜討ち計画となったらしい。

しかし、これは甘かった。

尊氏は知っている。堂上における“尊氏なし”などという排他的空気にも、彼は鈍のようでいて鈍感ではない。とくに六月六日の宵からは、すでに非常をさとって、六波羅一帯は急武装にかかっていた。――宇治舟がとだえたのは、その方面から、楠木正成が畿内の兵を動員しているものと見て、大和口へ一手をそなえ、また二条方面から五条へかけては、明け方までに、数千騎を配置して、

「いつでも」

と、宮の出方を待ちすましていたのであった。

どうして、そんな迅く、しかも六波羅勢だけとも思えぬ兵力を尊氏が配備したのか。

これには大塔ノ宮以下、一驚を喫して、夜討ちの出鼻をくじかれた。大誤算を生じたらしい。しょせん、正攻では敵わぬことはわかりすぎている。――ついにむなしく夜は明けてしまい、夜討ちの秘密計画は不発に終ってしまったのである。白々と事なく明けた町を見て、ほっとしたのは洛内万戸の市民であった。

あとでは尊氏も、りつ然としたことだったろう。「――宮将軍の悪ラツさよ。もしこなたが事前に宮の秘計をさとらずにいたらどうなったろう?」