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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

13 黒白帖

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,638 字 · 233 页

青空文庫

御母の広義門院は反対で、初め、どうしてもお許しになるみ気色でなかった。それを幕府は力で迫り、公卿の一条経通や二条の関白良基らも、古例や先例や、いろんな理窟をつけてついに、北朝の後光厳天皇として、践祚を見るにいたったものだった。

「受禅(皇位譲渡の式)もなく、上皇の詔もなく、また神器もここにありませんが、尊氏は剣です、良基(二条関白)は璽(印)です。これを神器とすればよろしい」

と、良基はいったという。まったく前例も無視して強行された天皇の誕生だった。

義詮は、京都に。

尊氏は、遠く鎌倉に。

この変則的なかたちはほぼ一年の余つづいた。

ところがここへ来て、九州の足利直冬は、南朝からうけた綸旨を名分に、正平八年の夏、大挙して都へ攻めのぼってきた。

おそらく、鎌倉で毒殺された直義のことは、彼をいからせ、彼を一ばい奮然と蹶起させたにちがいあるまい。

実父の尊氏よりは、直義こそほんとの父だとしている直冬なのである。そのひとの遺志をついで、南朝方に降り、尊氏や義詮を敵として誅伐するのが何の不思議であろうやと、豪語を放ったことであろう。

南朝軍は、もちろんこれに呼応して、直冬と共に、京都へせまった。