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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

13 黒白帖

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,638 字 · 233 页

青空文庫

国土病む

国土病む

直義は残って、なお重臣たちと、今後の方針をかためあった。

御逃亡の君については、詮議はもちろん、尊氏の意を服膺して、むしろ予想しうる二次、三次のそなえに心をくばるべきであるとし、ほどなくみな、退出した。

そのあと。

直義は、広間から兄のいる一殿へ渡って行った。――なにかよい話があるといわれたが、どんな話が自分を待つのか。――彼もいまは、いつものおちつきにもどっていた。

彼を見ると、尊氏は、

「すぐ、正月だなあ」

と、言った。

話は、そんなことばからほぐれてゆき、――全然、時局のことではなかったのである。

「ほかでもないが弟。近々に、上杉重能がお供して、母者をこれへおつれして来るぞ。……どうだ、うれしかろうが」

「えっ、母上を」

「元弘いらい、ほとんど、別れ別れ、親と子、ひとつにいたこともないわしたちだった。父貞氏どのの御逝去のころを境に、世は大乱にむかい、われらは戦陣また戦陣――。母者もまた、あの鎌倉から三河、伊吹、さらには丹波の山奥と、流転に流転をかさねられた……。おもえば御不幸なお方ではある」

「上杉伊豆(重能)の領地、丹波の梅迫へと、夏ごろ、ひそかにお移りとは、かねて伺っておりましたが」