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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
13 黒白帖
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,638 字 · 233 页
つづいては、東国で参陣された宗良親王へもすすめて、この君とも、強ってここで別れた。そして吉野へ送らせた。――彼には胸に期する何かがすでにあったとみえる。
京都は目前だが、同時に足利軍の配備は、これまでに踏破して来た海道戦の比でない。そして、すべて新手の敵だ。その重厚な兵力はまた、いくらでも後備を繰り出すこともしよう。
「これからは」
と、顕家はいよいよ惨烈な苦戦を思う。
なにしろ頼む味方の中堅は、長途の疲労からまだ充分に脱けきれていず、それにこの奈良へ着いてからは、士気のゆるみも生じていた。
純なるみちのくの健児たちも、そのすべてが顕家のようであったわけではない。顕家のごとき教養のうえに持たれた情熱でも信念でもなかったから、ひとたび弛むと、ただの野性の若さだけになり、それが物珍しい奈良界隈の都会的な物への物欲に移行していって、燃え狂ったのは、自然といえば自然と言いうる現象であったろう。
ほかの書にはないが「興福寺略年代」には、このときの奥州兵は、奈良ではじつに手当り次第な掠奪をおこなって、まるで野の子供みたいな野蛮性を発揮したと書いている。――その暴状ぶりは当時戦乱に馴れた時人をしてさえ「前代未聞……」