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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
13 黒白帖
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,638 字 · 233 页
「瓦解はのがれえまい。いまのうちに」
と、身の処置を案じたり、余命を山林に隠そうとするうごきなども見えだしていた。
こういうなかに在って、たれよりも平静でいたのは准后の廉子であった。
もちろん、幾夜も悲しみの底に泣いて、先帝とのお別れに、女の尽きない涙を涸らしたであろう容子は、その豊麗にも、げっそりと、窶れのきわだッてきたことでもわかる。が、日もたつにしたがって、彼女は、童形十三歳の新帝後村上を擁して、
国母
そのものになりきっていた。後醍醐のなきのちも、後醍醐のいますが如く、わが子を立てて、いやこの幼帝に仕えて、先帝の遺誡にそむくまいと、自己を神格的なものに持ちささえている寡婦のつよい一心が、その姿までを、氷の中の花みたいに、きびしいものに作っていた。
けれど、衆臣の動揺は、この一寡婦と年少の天子に、しょせん、大きな頼みはかけられなかった。時に、それを励ましたのは、公卿でなく、吉野ノ執行、吉水院ノ法印宗信で、
「まだ先帝の七々ノ御忌もすまぬのに、もう南山の解体を議せられるなどは、余りにもふがいないではありませんか。諸州の義士は、かえって、この悲報と遺詔によって、いちばい奮い立ッてくるかもしれず――尊氏が思うつぼにはまってはなりますまい。