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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

13 黒白帖

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 116,638 字 · 233 页

青空文庫

――儒家の良師範といわれていた行親だけにその死はいたく惜しまれた。

同様な目にあった公卿の家は枚挙にいとまがない。これらの下手人はもちろん武士でも下級武士の輩だった。主人がやっていることを見て、自分らもやってみたくなるのであろう。だが、主人はみな勝者の府の実力者だ。何を公々然とやってもつかまらない。だが彼らはまま打首になった。

公卿侮辱に出るだけでなく、武士たちはしばしば宗教へも揶揄と驕慢を故意にした。栂尾の僧坊へ放火した乱暴者があったのも最近のことで、貴人の車を見ても、礼をしないなどは、もう通り相場になっている。

そのうちに、はしなく、ここに一椿事がおこった。

九月六日のことである。

光厳上皇はその日、持明院の八講会からのお還りの途中で、五条樋口の東ノ洞院にさしかかられた頃は、はや日も暮れて、道は暗かった。

すると、一団十数騎の武士が先の方から駈けて来た。どこかの馬場で笠懸の競技のすえ、芝居酒に時をうつし、洛内の灯を目あてに急ぎ帰って来たものらしく、上皇の御車と知っても、駒を止めそうにもしない。

そこで、先駆の随身たちが、

「下馬せよ!」

「無礼すな」