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あきふかき

秋深き

織田 作之助

「大阪文学」1942(昭和17)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,176 字 · 27 页

青空文庫

「それをきいて安心しました」

女は私の言葉をなんときいたのか、生真面目な顔で言った。私はまだこの女の微笑した顔を見ていない、とふと思った。

そして、私もこの女の前で一度も微笑したことはない……。

女はますます仮面のような顔になった。

「ほんまに、あの人くらい下劣な人はあれしませんわ」

「そうですかね。そんな下劣な人ですかね。よい人のようじゃありませんか」

その気もなく言うと、突然女が泪をためたので驚いた。

「貴方にはなにも分れしませんのですわ。ほんまに私は不幸な女ですわ」

うるんだ眼で恨めしそうに私をにらんだ。視線があらぬ方へそれている。それでますます恨めしそうだった。

私は答えようもなく、いかにも芸のなさそうな顔をして、黙っていた。

すると、女の唇が不気味にふるえた。そして大粒の泪が蒼黝い皮膚を汚して落ちて来た。ほんとうに泣き出してしまったのだ。

私は頗る閉口した。どういう風に慰めるべきか、ほとほと思案に余った。

女は袂から器用に手巾をとりだして、そしてまた泣きだした。

その時、思いがけず廊下に足音がきこえた。かなり乱暴な足音だった。

私はなぜかはっとした。