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あきくさのみ
秋草の顆
佐左木 俊郎
「今日の文学」1931(昭和6)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,856 字 · 8 页
貞子は、朝の出がけには屹度「行って参ります」と手を突いていうのであるし、帰って来ると又「ただ今帰りました」というのであるから、峻も今に屹度そんな風になりはしないかと、私は内心ひどく恐れていた。私は全くその挨拶に対する挨拶に困るのだ。妻の気転で、貞子は私には決して挨拶をしないようにしていたが、それでも、妻が外出している時などは、私はひどく平静を失うのだった。併し、よく考えて見ると、私達一家の者の性格の動向は、積極的な妻と貞子との方へ動かずに、消極的な私の性格に向けて動いているのであった。いつまで経っても、峻は依然として挨拶をせずに出掛けて行って、いつのまにかこっそりと帰って来ては本に噛りついているという具合だった。そしてどうかすると、大変遅くなってから帰って来るようなことも度々であったが、私はもちろんのこと、妻までが、最近は「どこへ行って来たんです?」というような質問はしないようになっていた。妻のそういう態度は、貞子に対してまで段々私と同じようになって来ることが感じられた。貞子もしばしば遅くなって帰って来るらしいのに、妻は決して「どこかへ廻ったの?」