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しゅうふうふき
秋風不帰
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1939(昭和14)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,593 字 · 28 页
四
四
「だが馬を暴れ込ませた智慧はあっぱれだ、あの場合よくあれに考えついたな」
「わたくし馬をお勧め申しましたでしょう。あの時から若さまではないかと思っていましたの。それで隙があったら、お呼び掛けしようとしていましたら後から呼ばれて、あの男はお仕置方の手先で、もう若さまだということを察していたらしいのです。ですからお高はすぐ戻って、後を跟けました、そうすると、あの騒ぎです。おまけに加勢まで来るのが見えましたから、思い切って馬のお尻を小刀で」
「切ったのか?」
「そうするより他に、仕様がございませんでしたもの、でも可哀そうでございました」
夏雄は支度を終えて土間へ下りた。
「では行って来るぞ」
「どうぞ呉々もお気をつけて……」
「出ないで待っているのだぞ、昨日のことで恐らくおまえも疑われているだろうから。いいか、出てはいけないぞ」
「はい」
お高はじっと夏雄の眼を見詰めながら頷いた。
もう黄昏であった。
昨夜ひと晩考えた末、彼は先ず第一の手順として七沢吉郎兵衛を訪ねることにした。……ここで云って置かなければならぬ事は、彼には許嫁があった。同藩の納戸役を勤める若林善之助の妹で町子、もう十年も前からの約束で年は夏雄と六つ違いの二十一になる。