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かがくとぶんがく

科学と文学

寺田 寅彦

「世界文学講座」1933(昭和8)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,562 字 · 50 页

青空文庫

「狂人の文学」はわれわれの文学では有り得ないであろう。それは狂人の思惟の方則と論理に従って動いているからである。それらの方則はもはやなんらの普遍性を持たない。これがおそらくまた逆に狂人というものを定義する一つの箇条であろう。

科学というものの内容も、よく考えてみるとやはり結局は「言葉」である。もっとも普通の世間の人の口にする科学という語の包括する漠然とした概念の中には、たとえばラジオとか飛行機とか紫外線療法とかいうようなものがある。しかしこれらは科学の産み出した生産物であって学そのものとは区別さるべきものであろう。また通俗科学雑誌のページと口絵をにぎわすものの大部分は科学的商品の引き札であったり、科学界の三面記事のごときものである。人間霊知の作品としての「学」の一部を成すところの科学はやはり「言葉」でつづられた記録でありまた予言であり、そうしてわれわれのこの世界に普遍的なものでなければならないのである。

文字で書き現わされていて、だれでもが読めるようになったものでなければ、それはやはり科学ではない。ある学者が記録し発表せずに終わった大発見というような実証のないものは新聞記事にはなっても科学界にとっては存在がないのと同等である。