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かがくにこころざすひとへ

科学に志す人へ

寺田 寅彦

「帝国大学新聞」1934(昭和9)年4月30日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,605 字 · 8 页

青空文庫

にほめられたりしたことが今思い出しても可笑しいような子供らしい嬉しさを感じさせるのである。二年生のときにN先生の研究の手伝いの傍らそれに縁のあるミラージに関する色々の実験をしたことも生涯忘れられぬ喜びであった。三年生のときはT先生の磁力測量の結果の整理に関する仕事の御手伝いをしながら生意気にも色々勝手な議論を持ちだしたりした。それを学生のいうことでも馬鹿にしないで真面目に受け入れて、学問のためには赤子も大人も区別しない先生の態度に感激したりした。こういう本格的な研究仕事を手伝わされたことがどんなに仕合せであったかということを、本当に十分に估価し玩味するためにはその後の三十年の体験が必要であったのである。

たしか三年の冬休みに修善寺へ行ってレーリーの『音響』を読んだ。湯に入り過ぎたためにからだが変になって、湯から出ると寒気がするので、湯に入っては蒲団に潜ってレーリーを読み、また湯に入っては蒲団を冠ってレーリーを読んだ。風邪を引いた代りにレーリーがずいぶん骨身にしみて後日の役に立った。

楽しみに学問をするというのはいけないことかもしれないが、自分はどうも結局自分の我儘な道楽のために物理学関係の学問をかじり散らして来たものらしい。