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ちごがふち

稚子ヶ淵

小川 未明

「早稲田學報」1906(明治39)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,097 字 · 8 页

青空文庫

明くる朝を待って池の畔へ行って見ると、可哀そうに二郎の被っていた菅笠が池の水に漂うていた。父親は其処に泣き倒れた。而して一先村へ帰って人々の助けを借りて、再び池の中を捜索したけれど、その苦心の効いもなく、とうとう死骸を見付ることが出来なかった。

其処で村の人達は相会して、これには何か不思議な仔細があるのであろうと議結をして小祠を大きな合歓の木の下に建立して、どうかこの村に何事の祟もないように、どうか旱魃の時にはこの村の田畑に水の枯れぬように、どうか小供の水難を救われるようにと祈祷をして、さてこの池をば稚子が淵の明神と名づけたのである。

毎年初夏の頃になると、薄紅色の合歓の花が咲く。その頃になるとこの祠の祭があるので、村祭同様に村中の者が家業を休む。その時にはこのさびしい山中にも太鼓の音がひびき、笛の音も冴える、而して春、夏、秋、冬、この池の水は青々として黒ずんで、静かな山や、林や、杜の影を映している。青葉の夏も、紅葉の秋も、いつもなつかしい慕わしい眺めである。