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いのうはりまのかみ

稲生播磨守

林 不忘

「講談倶楽部」講談社、1935(昭和10)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,172 字 · 29 页

青空文庫

おれはそれが嬉しい。何よりもうれしい! おれはこれを探していた。おれの望んでいたものは、これだったのだ! どんなにそれを捜し求めたことか、おれのその味気ない胸中は、だ、誰も知らぬ。うむ、誰も知らぬ――加世の拒絶によって、おれは初めて男になった。加世はおれを、人間にしてくれたのだ。おれはもう馬鹿大名ではないぞ。郁之進と同じ人間だぞ、一人の男だぞ。それが郁之進と加世を争って、み、見事に負けたのだ。ははははは、ああ愉快だ、ああ愉快だ! 加世のおかげで、おれはやっと、この人間らしい、男らしい晴ればれとした気持ちを、とうとう味わうことができたのだ。その大恩人の身体に、どうして触れられよう! 郁之進! 加世は潔い身体だぞ。す、末長く、仲よく添い遂げい。

郁之進 (狂乱して)殿! お気を確かに――私はこの場に屠腹して、お詫びつかまつります。

播磨 ええいっ、馬鹿め! わからぬか。それでは余の念が届かぬ。

どやどや跫音を乱して家老矢沢、吾孫子老人、池田、森ら多勢走り込んでくる。一同この場の仕儀に愕然として、物をも言わず郁之進を召し捕りにかかる。

播磨 (すっくと起って、大手を拡げて郁之進と加世を背ろに庇う)何をするかっ! 郁之進に斬られて、余は今、生まれて初めて、日本晴れの気もちが致しておるところだ。