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いのうはりまのかみ

稲生播磨守

林 不忘

「講談倶楽部」講談社、1935(昭和10)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,172 字 · 29 页

青空文庫

どうしてこのおれの、殿に対して何らの異心も無いこの胸の内が通ぜぬのだろう。まだ誠がたらぬのか。(と地に坐って考え込み、はてはぴたりと両手を突いて、うな垂れる)

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奥の大広間。正面に開かれた襖の外に廊下、その向うに宵闇の迫る庭が見える。

お加世の父、お納戸役人吾孫子なにがしというおどおどした老人が、池田、森の両人と対坐している。

お坊主がはいって来る。

坊主 (三人へ)ただいま殿には、お歌の会を御中座なされて、ほどなくこれへお渡りになります。

池田 さようですか。これはどうもお使い御苦労。(吾孫子老人へ、前からの話をつづけて)それが、いかに鎌を掛けても、けっして本音を吐かんのですよ。

森 気の弱い男だ。いや、あの、何のうらみも抱いておらぬという、あれがきゃつの本音なのさ。

池田 たといいくら気の強い男でも、相手が藩公ではなあ、はっはっは。

吾孫子 いや、寝覚めの悪い思いをします。こういうことになって、私も思わぬ出世をさせていただくとわかっておったら、もうすこし嫁入りさせずに置くんじゃった。ちと早まりましたて。

池田 なに、あの生っ白い税所輩が、生意気千万にも、絶世の美人お加世どのを妻にしたりするから、かようなことになるのだ。