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あきや
空家
宮崎 湖処子
「国民之友」1889(明治24)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,554 字 · 30 页
上
麑島謀反の急報は巻き来たる狂瀾のごとく九州の極より極に打てり、物騒なる風説、一たびは熊本城落ちんとするの噂となり、二たびは到るところの不平士族賊軍に呼応して、天下再び乱れんとするの杞憂となり、ついには朝廷御危しとの恐怖となり、世間はみずから想像してみずから驚愕せり、ただ生活に窮せる士族、病人に棄てられたる医者、信用なき商人、市井の無頼らが命の価を得んとて戦場に赴くあるのみ、他は皆南方の風にも震えり、しかれども熊本城ははるかに雲のあなたにて、ここは山川四十里隔たる離落、何方の空もいと穏やかにぞ見えたる、
いと長き旅に疲れし春の日が、その薄き光線を曳きつつ西方の峰を越えしより早や一時間余も過ぎぬ、遠寺に打ちたる入相の鐘の音も今は絶えて久しくなりぬ、夕の雲は峰より峰をつらね、夜の影もトップリと圃に布きぬ、麓の霞は幾処の村落を鎖しつ、古門村もただチラチラと散る火影によりてその端の人家を顕わすのみ、いかに静かなる鄙の景色よ、いかにのどかなる野辺の夕暮よ、ここに音するものとてはただ一条の水夜とも知らで流るるあるのみ、それすら世界の休息を歌うもののごとく、スヤスヤと眠りを誘いぬ、そのやや上流に架けたる