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くうしゅうかのにほん

空襲下の日本

海野 十三

「日ノ出 付録 國難來る! 日本はどうなるか」1933(昭和8)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,527 字 · 30 页

青空文庫

「ど、ど、毒瓦斯がアーッ」

「毒瓦斯が来たぞオ」

獣のような怒号が、あっちでも、こっちでも起った。死にもの狂いで、逃げだす群衆の混乱さ加減は、形容のしようもない程ますますひどくなってきた。

「慌てちゃいかんいかん。平常の国民の訓練を役立てるのは今日のためだった」

「武蔵野館の地下室へ逃げて下さーアい」

「風下へ行っちゃ駄目ですよオ、戸山ヶ原の方へ避難しなさアーい」

青年団員は、声を嗄らして、沈着な警報をつづけた。

「おお、青年団がいるなッ。毒瓦斯はホスゲンだ、皆、マスクを被れッ」

予備将校らしいのが、蜻蛉の化物のような防毒マスクを腰から外しながら、勇敢なる団員たちに注意を発した。

その向うの角を入ると、屋根の低い町家が並び立っていた。この狭い路地には、逃げ遅れた避難民が、あちらでもこちらでも、仰向けにひっくりかえっていた。皆がいいあわしたように咽喉へ両手をかけて、もがき死んでいる。その側には、立派な猟犬シェパードが、同じような向きに斃れている。赤ン坊を背負った若い内儀さんが、裾をはだけて向うから駈けてきた。そのあとから小さい黒い影が一つ、追ってくる。

「母アちゃん、母アちゃん」