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くうしゅうかのにほん

空襲下の日本

海野 十三

「日ノ出 付録 國難來る! 日本はどうなるか」1933(昭和8)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,527 字 · 30 页

青空文庫

最後の勝利者

マスクの主人は、とりもなおさず一家の警戒係をつとめているわけだった。彼の側にはさらし粉が入ったバケツが三つも並んでいた。イペリットのような皮膚に対して糜爛性の毒瓦斯が襲来したときには、その上に撒いて消毒するためだった。

表通りを消防自動車の走ってゆく騒然たる響きがする。消防隊員は、死物狂いで、敵の爆弾のために発火した場所を素早く消し廻っているのだった。理解と沈着と果断とが、紙のように燃えやすい市街を、灰燼から辛うじて救っているのだった。

最後の勝利者

――昭和×年十一月、焼土の上にて――

「よくまア、めぐりあえて、あたし……あたし……」

「うん、うん。お前もよく、無事で……」

灰になった家の前で二人は抱きあっていた。そこは嘗て、彼等が平和な家庭生活を営んでいたその地点だった。

「貴方。あなたは一度も帰ってきて下さらなかったのネ」

「僕は予備士官だ。仕方がなかったのだよ」

「だって航空兵だっていう貴方が、軍服を着ていなすったような様子がないじゃありませんか」

「この背広服はおかしいだろう。しかし今だから云うが、僕は空襲下に於いて、敵国へこの日本を売ろうという憎むべき人物を、ずっと監視していたのだ。