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くうしゅうそうそうきょく

空襲葬送曲

海野 十三

「朝日」1932(昭和7)年5月~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 95,012 字 · 189 页

青空文庫

「はッ」曹長は、一礼してそれを受けとると、機上から上半身を乗りだして、遥かの下界を向いて双眼鏡のピントを合せた。

「見えないか」

「判りましたッ」

「どうだ」

「焼土ばかりです。附近に、家らしいものは、一軒も見えません」

「戦争じゃからナ」中佐は、気の毒に耐えぬといった調子で、今から一と月程前までは、社会局の名事務員だった浅川岸一を慰めたのだった。

「浅川は、司令部の御命令で、昨夜は、立川飛行聯隊の宿舎に閉じこめられ、切歯扼腕していました。この上は、早く敵機に、めぐり逢いたいであります」

小さいけれど、彼の懐しい裏長屋は、影すら見えなかった。そこには、用務員をしている父亀之助と、年老いた祖母と、優しい母と、ダンサーをしている直ぐ下の妹舟子と、次の妹の笛子と、中学生の弟波二とが、居た筈だった。彼等は、憎むべき敵機の爆弾に、蹴散らされてしまったのだった。今頃は、どこにどうしていることやら。生か、それとも死か。彼は、折角飛行命令が出たのに、求める敵機の、姿も影も見当らないのを、残念がった。

「おお、あれは何だろう!」

突然、眼のいい塩原参謀が、怒鳴った。

「なに※(感嘆符疑問符、1-8-78)」中佐は、参謀の指す彼方を、注視した。