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くうしゅうそうそうきょく

空襲葬送曲

海野 十三

「朝日」1932(昭和7)年5月~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 95,012 字 · 189 页

青空文庫

彼は、往来を、急ぐでもなく、ブラブラと歩き出した。大通りに出てみると、避難民や、軍隊が、土煙をあげて、はげしく往来していた。

青年は、駿河台下の方へ、下って行った。そこは、学生の多い神田の、目貫の場所であって、書店や、ミルクホールや、喫茶店や、カフェや、麻雀倶楽部や、活動館や、雑貨店や、ダンスホールが、軒に軒を重ねあわせて並んでいた。流石に、今日は、店を閉めているところが、少くはなかったが、中には、東京人特有の度胸太さで、半ば犠牲的に、避難民のために、便宜をはかっている家も、見うけられた。

キャバレ・イーグルも、そのうちの一軒だった。

このキャバレ・イーグルという家は、カフェとレビュー館との、中間みたいな家だった。お酒を呑んだり、チキンの皿を抱えながら、美しい踊り子の舞踊が見られたり、そうかと思うと、お客たちが、てんでに席を立って、ダンスをしたりすることが出来た。随って、ここの客は、若い婦人と、三十過ぎの男とが多かった。そして、どちらかというと、不良がかった色彩を帯びていることも、否めなかったのである。

彼の青年は、何の躊躇もなく、イーグルの入口をくぐった。