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くうしゅうそうそうきょく

空襲葬送曲

海野 十三

「朝日」1932(昭和7)年5月~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 95,012 字 · 189 页

青空文庫

「ビール樽は、そのころから、お店の周囲をうろついてたんだわ。あいつ、百円紙幣に釣られて、あんたの身代りになったのね」

「では、真弓。これから、故郷へ帰ったら、二三年は、東京へ顔を出しちゃ、危いぞ」

「もう、お降りになるの。いまお別れしたら、何時お目に懸かれるか、判らないわネ」

「お互に、どうなるか、判らない人生だ。帰ったら、お父さんや、子供を、大事にしろ」

「これでも、あたし、古い型の女よ。帰ったら、いいママになりますわ」

「それがいい」男爵は、運転手の方へ向いて停車を命じた。

「では、所長」と運転手は、降り立った男爵に声をかけた。「たしかに、御婦人を、茨城県磯崎まで、送りとどけて参ります」

「どうか、頼んだぞ」

「それじゃ、サヨナラ。あたしの、男爵さま――では無かった、帆村荘六様」

「御健在に――」

青年は、小さくなってゆく、自動車の方に手を振った。「男爵」というのは、無論、綽名であって、G・P・Uの日本派遣隊の集合所と睨まれるキャバレ・イーグルに於ける不良仲間としての呼び名だった。そこで、彼は巧みに、狼を隊長とする彼の一団に近づき、国際的陰謀の謎を、解きつつあった。