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くうしゅうそうそうきょく

空襲葬送曲

海野 十三

「朝日」1932(昭和7)年5月~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 95,012 字 · 189 页

青空文庫

「おい素六、どこへ行く?」

店の前まで来たときに、花川戸の鼻緒問屋の主人下田長造は遽てて駈けだす三男の素六を認めたので、イキナリ声をかけたのだった。

「あ、お父さん」ボーイ・スカウトの服装に身を固めた素六は、緊張の面を輝かせて、立止った。「いよいよ警戒管制が出ましたから、僕働いてきます!」

「なに、警戒管制!」長造は目をパチクリとした。「警戒管制てなんだい」

「いやだなア、お父さんは」少年は体をくの字に曲げて慨歎したのだった。「警戒管制てのは、敵の飛行機が東京の上空にやって来て、街の明るい電灯を見ると、ははァ此の下が東京市だなと知るでしょう。そこで爆弾をボンボンおっことすから、大変なことに、なっちゃう。だから空襲のときには、電灯をすっかり消して、山だか海だか、判らないようにして置くことが大切でしょう」

「そんなことァ知ってるよ」長造は、顔を膨らましてみせた。

「皆で、電灯のスイッチをパチンとひねれば、いいじゃないか」

「だけど、スイッチを誰がひねるか判っていないのですよ。電柱についている電灯だとか、お蕎麦やさんの看板灯なんかは、よく忘れるんですよ。ですから、警戒管制になると空から見える灯火は、いつでも命令あり次第に、手早く消せるように用意をして置くんです。