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くうしゅうそうそうきょく

空襲葬送曲

海野 十三

「朝日」1932(昭和7)年5月~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 95,012 字 · 189 页

青空文庫

五十銭銀貨を一枚でも、掌の中につかんだものは、強奪の快感の捕虜となって、ますます興奮を、つのらせて行った。五円紙幣を手に入れたものは、顔までが、悪魔の弟子のようになった。獣心が、檻を破り、ムラムラと、飛びだした。一味の者は、細心の注意をもって、機会を見ては、巧みに、煽動した。居合わせた婦女子は、駭きのあまりに、失心する者が多かった。正義人道を口にするものが、四五人もいて頑張れば、群衆の冷静さを、幾分とりもどせたろうと思われたが、誰もが呆然自失していて、適当な処置を誤ったのだった。一味の計画は、すっかり、図に当った。

「××人が、本当に暴れだしたぞォ」

「東京市民は、愚図愚図していると、毒瓦斯で、全滅するぞ。兵営に、防毒マスクが、沢山貯蔵されているから、押駆けろッ」

「デパートを襲撃して、吾等の払った利益をとりかえせ」

「国防力がないのなら、戦争を中止しろッ」

「放送局を占領しろッ」

などと、さまざまな、不穏指令が、街頭に流布された。

警官隊も、青年団も、敵機の帝都爆撃にばかり、注意力が向いていて、暴徒が芽をだしはじめたときに、早速苅りとることに気がつかなかった。