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くうしゅうけいほう
空襲警報
海野 十三
「少年倶楽部」別冊付録、大日本雄弁会講談社、1936(昭和11)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,838 字 · 92 页
このとき姉はゴソゴソ押入を探していた。
「ちょっと、旗男さん。……逃げるにしても防毒面がなければね。もう一つあったはずだが……ああ、あった。旗男さん。早くこれをかぶんなさい」
さすがに軍人の家庭は用意がよかった。
旗男は、非常な感激とともに、その防毒面を情ぶかい姉の手からうけとった。
「……旗男さん。あんた、この町にぐずぐずしていちゃいけないわ。きっと東京は、もっとひどい空襲をうけていてよ。家はお父さまもお母さまも御病気なんでしょ。竹ちゃんや晴ちゃんでは小さくて、こんなときには頼みにはならないわ。こっちは大丈夫だから、あんたは急いで東京へ帰ってよ、ね、お願いするわ」
「ええ……」
旗男もさっきから、そのことを心配していたのだ。早く帰らないと申分ない。
そのとき裏手から、また焼けつくような煙がふきこんできた。
「さァ、姉さん、はやく……」
姉と坊やとを押しだすようにして庭へとびおりた。そのとき猛火はもう羽目板に燃えうつっていた。
廂からといわず、窓からといわず息づまるような黒煙が濛々と渦をまいて追ってくる。……旗男は渡された防毒面をかぶろうとしたが、一体、姉たちの用意はいいのかしらと心配になって、後をふりかえった。