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まどにさすかげ
窓にさす影
豊島 与志雄
「小説公園」1952(昭和27)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,068 字 · 26 页
そして何やら独り頷いて、やがて言った。
「お大事になすったが宜しゅうございますよ。」
もとよりその通りで、老年の病気は大事にするのが当然だ。けれど、その時私がへんに思ったのは、大丈夫でしょうとか、やがてお癒りなさるでしょうとか、慰めの言葉を一言も言わないことだった。今になって考えてみると、A叔母さんは祖母の死期を予感していたのではあるまいかとも疑われる。
それからも一度、へんなことがあった。
祖母の衰弱がまだひどくならない前、気分のよい時、A叔母さんはまた見舞いに来て、祖母と暫く話していった。どんな話だったか私は知らないが、私が玄関まで送ってゆくと、A叔母さんはコートを引っかけながら、くるりと私の方へ向き直って、私の顔をじっと見た。私はどきりとした。叔母さんはすぐに眼を外らしたが、その眼が宙に据わって、頬の肉がへんに蒼白かった。そのまま、ちょっと間を置いて、叔母さんは言った。
「美佐子さん、お祖母さまを大切にしてあげなさいよ。」
そこへ母が出て来て、二―三言、普通の挨拶が交わされた。
ただそれだけのことだったが、今になってみると、なんだか、A叔母さんには祖母の死期が分っていたのではあるまいかとも疑われる。