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まどのしたをとおったおとこ

窓の下を通った男

小川 未明

「赤い鳥」1926(大正15)年7月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 4,485 字 · 10 页

青空文庫

それから、近所の人々に、それとなしに聞いてみると、なんでも遠方へ越していかれたようです。相手が、きたならしい乞食であるので、だれもくわしく、しんせつにものをいって教えてくれるものがなかったのです。男は、ついに知ることができませんでした。

哀れな男は、またまったく世の中から、見捨てられた、さびしい人間となってしまいました。いつまで、同じところに、さまよっていてもしかたがなかったから、村から村へ、町から町へあてもなく、さすらいの旅をすることとなりました。その間に、また、長い月日は、しぜんにたっていきました。いろいろの土地を歩きましたが、乞食の男は、ふたたび、あのしんせつな女の人にめぐりあうことはなかったのです。

男は、どうかして、もう一度めぐりあいたいものだと思いました。しんせつにしてもらった恩を忘れなかったのであります。

ある年のこと、男は、街道を歩いていました。北の方の国であって、夏のはじめというのに、国境の山々には、まだ、ところどころ、白い雪が消えずに残っていたのでした。けれど、野原にはいろいろの花が咲いて、澄んだ空の下で、日の光にかがやき、また、どこともなく吹く風に、さびしそうに揺らいでいました。