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まどのしたをとおったおとこ
窓の下を通った男
小川 未明
「赤い鳥」1926(大正15)年7月
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 4,485 字 · 10 页
男は、そんな景色を見ながら歩いているうちに、死んだ女房のことや、子供のことなどを思ったのでした。また、自分が子供の時分、友だちと竹馬に乗って、駆けっこをしたり、往来の上で輪をまわして、遊んだことなどを記憶から呼び起こしたのであります。しかし、それは、遠い昔のことであり、また、自分のうまれた国は、たいへんにここからは離れていたのでありました。
ちょうど、このとき、あちらの方に汽車の笛の音がしたのでした。やがて平原を、こちらに向かって走ってくる汽車の小さな影を認めたのでした。男は、しばらくなにもかも忘れて、子供のようになって、その汽車を見まもっていました。
静かな、うららかな天気の日であったのです。よく子供の時分に、迷信ともつかず、ただ、魔法を使うのだといって、口のうちで、おなじことを三べんくりかえしていうと、きっと思ったとおりになると信じたことがありましたが、男は、ふと子供の時分に、やったことを思い出して、
「とまれ、とまれ、とまれ!」と、汽車の走ってくるのをながめながら、ぜんぜん子供の気持ちになって、汽車に向かっていったのでした。
普通に考えてみても、そんなことをいったとて、汽車がとまる道理がありません。