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りゅうたんだん
竜潭譚
泉 鏡花
「文芸倶楽部」1896(明治29)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,899 字 · 30 页
ふるさと
たけたるが莞爾とあでやかに笑みたまいしが、そののちは見えざりき。蘆は繁く丈よりも高き汀に、船はとんとつきあたりぬ。
ふるさと
おじはわれを扶けて船より出だしつ。またその背を向けたり。
「泣くでねえ泣くでねえ。もうじきに坊ッさまの家じゃ。」と慰めぬ。かなしさはそれにはあらねど、いうもかいなくてただ泣きたりしが、しだいに身のつかれを感じて、手も足も綿のごとくうちかけらるるよう肩に負われて、顔を垂れてぞともなわれし。見覚えある板塀のあたりに来て、日のややくれかかる時、老夫はわれを抱き下して、溝のふちに立たせ、ほくほく打えみつつ、慇懃に会釈したり。
「おとなにしさっしゃりませ。はい。」
といいずてに何地ゆくらむ。別れはそれにも惜しかりしが、あと追うべき力もなくて見おくり果てつ。指す方もあらでありくともなく歩をうつすに、頭ふらふらと足の重たくて行悩む、前に行くも、後ろに帰るも皆見知越のものなれど、誰も取りあわむとはせで往きつ来りつす。さるにてもなおものありげにわが顔をみつつ行くが、冷かに嘲るがごとく憎さげなるぞ腹立しき。おもしろからぬ町ぞとばかり、足はわれ知らず向直りて、とぼとぼとまた山ある方にあるき出しぬ。