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りゅうたんだん
竜潭譚
泉 鏡花
「文芸倶楽部」1896(明治29)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,899 字 · 30 页
鎮守の社
色彩あり光沢ある虫は毒なりと、姉上の教えたるをふと思い出でたれば、打置きてすごすごと引返せしが、足許にさきの石の二ツに砕けて落ちたるより俄に心動き、拾いあげて取って返し、きと毒虫をねらいたり。
このたびはあやまたず、したたかうって殺しぬ。嬉しく走りつきて石をあわせ、ひたと打ひしぎて蹴飛ばしたる、石は躑躅のなかをくぐりて小砂利をさそい、ばらばらと谷深くおちゆく音しき。
袂のちり打はらいて空を仰げば、日脚やや斜になりぬ。ほかほかとかおあつき日向に唇かわきて、眼のふちより頬のあたりむず痒きこと限りなかりき。
心着けば旧来し方にはあらじと思う坂道の異なる方にわれはいつかおりかけいたり。丘ひとつ越えたりけむ、戻る路はまたさきとおなじのぼりになりぬ。見渡せば、見まわせば、赤土の道幅せまく、うねりうねり果しなきに、両側つづきの躑躅の花、遠き方は前後を塞ぎて、日かげあかく咲込めたる空のいろの真蒼き下に、彳むはわれのみなり。
鎮守の社
坂は急ならず長くもあらねど、一つ尽ればまたあらたに顕る。起伏あたかも大波のごとく打続きて、いつ坦ならむとも見えざりき。
あまり倦みたれば、一ツおりてのぼる坂の窪に踞いし、手のあきたるまま何ならむ指もて土にかきはじめぬ。