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どうてい
童貞
夢野 久作
「新青年 第11巻第10号」1930(昭和5)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,572 字 · 27 页
「あなたは……刑事さんでしょう……」
そう言って眉を引き釣らせながら、彼女はたまらない悲痛な絶望的な表情をした。
「……変装していらっしゃるのでしょう。……そうして……」と言いつつ彼女はまたもグッと唾を嚥んだ。「妾を……妾をつけまわしていらしたんでしょう……」
ズバリとそう言ううちに彼女の大きな眼から珠のような涙がポタリポタリと落ちた。それを拭おうともせずに彼女は、自分の胸をシッカリと掻き抱いていた。
その顔を草の葉ごしに、和やかに、澄み切った眼で見上げながら、彼は力なく微笑して見せた。その両頬にポーッと血の色がさして来た。その眼がキラキラと希望に輝き出した。同時にその全身から夕暗の中でもハッキリとわかるほどに肉感的なほのめきを放散しはじめた。男装をしているだけに、それが一層あらわなものに見えた。……と見るうちに彼女は突然に、取ってつけたようなお辞儀をし始めた。両頬の涙を拭いもせずに、白い両手の指を揃えて、断髪の頭を草の中に押し込んで、繰り返し繰り返し、彼を伏し拝んだ。乞食のように真剣な、哀れな声を出した。
「旦那様、旦那様、旦那様、旦那様……どうぞどうぞお助け下さいまし……後生ですから……ホントウに後生で御座いますから……」