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はこねのやま

箱根の山

田中 英光

「文藝春秋 別冊2」1946(昭和21)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,963 字 · 33 页

青空文庫

、「そうともよ、ここからまた一里ほど行ったら畑宿いう小さな村があるが、ここと同じような処だで、なんにもなかッぺ。それから双子山へ登るだから、そんな小さな子を連れては無理だ。もっとも甘酒茶屋まで行ったら、なにかあるか分らねえが」、「甘酒茶屋」、「おうよ、元箱根の手前で、まだ三里はあるら」

呆っ気に取られている中、柴が重いのか、婆様は籠を背負い直しさっさと行ってしまった。あとに私が行く事も返る事も分別がつき兼ね、ぼんやりしていると、一郎のほうは未だお腹が空かないのか、「行こうよ」と振返り、手を大きく振って、さっさと歩いて行く。私はやはり前進だと、なにか子供に教わった気になって、彼の傍まで追いついたが、よく前途の苦難を言い聞かせて置かねばならぬと思い、「こら一郎、もうあのお山の上に行くまでなんにも食べれないが好いね」、「ウン、好いよ」一郎はあっさり承知して歩いて行く。

「きっとだよ、もし途中で腹が減ったなぞ言いだしたら、お父さん、ほんとにひっぱたくよッ」バカな親父は少し逆上して、乱暴な事をムキになって言ったが、「ウン大丈夫よッ」一郎はニコニコして大元気。